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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)1421号 判決 1997年5月16日

原告

吉川勝夫

右訴訟代理人弁護士

藤巻一雄

被告

今村秋男こと

羅秋男

右訴訟代理人弁護士

久保田寿一

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録三記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明渡せ。

二  被告は、原告に対し、平成七年五月三日から前項の土地明渡しに至るまで一か月金一四万二〇〇〇円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  この判決第一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項と同旨

二  被告は、原告に対し、平成七年五月三日から前項の土地明渡しに至るまで一か月金一五万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有している原告が、同目録三記載の建物(以下「本件建物」という。)を建築、所有して本件土地を占有している被告に対し、右土地所有権に基づき右建物の収去、土地明渡し並びに不法行為に基づく損害賠償(賃料相当損害金)を請求した事案である。

一  争いのない事実等

1  原告は、本件土地を所有し、同土地上に別紙物件目録二記載の建物(以下「原告建物」という。)を所有していたが、右原告建物は平成七年一月一七日発生した阪神大震災により倒壊した。

被告は、原告建物の右倒壊当時、原告から原告建物の一部を賃借していた者である。

2  被告は、原告に対し、平成七年四月一〇日付内容証明郵便をもって、罹災都市借地借家臨時処理法(以下「臨時処理法」という。)二条による借地権設定の申出をなし、右郵便はそのころ原告に到達した(右被告の申出を、以下「本件借地権設定申出」という。)。

3  本件土地は、同年三月一七日兵庫県告示(第三四六号)により「新長田・鷹取地区震災復興土地区画整理事業」に関する都市計画決定(以下「本件都市計画」という。)がなされた事業の施工区域内にある土地であり、建築物を建築する場合には都市計画法五三条一項に基づく許可を受けなければならない土地である。(甲一の一・二)

4  原告は、被告からの本件借地権設定申出に対し、口頭で拒否の回答をしたところ、被告は、原告建物が解体撤去された後の同年五月三日から、本件土地上に本件建物の建築を開始してこれを完成させ、本件建物を所有して本件土地を占有している。

5  被告は、原告を相手方として、同年五月一五日神戸簡易裁判所に賃借権確認調停の申立てをしたが、右調停は同年八月三〇日不成立となった。

二  争点

1  本件借地権設定申出の効力の有無

(原告の主張)

(一) 本件都市計画区域内の土地に建築物を建築する場合には、都市計画法五三条一項に基づく許可を受けなければならないところ、被告の本件借地権設定申出は、右の許可を受けずになされたものであるから、無効である。

(二) (被告の主張に対し)

(1) 別紙物件目録三記載の物件(本件建物)が単なるコンテナであり、被告がこれを設置するために本件借地権設定申出をなしたというのであれば、右申し出は臨時処理法二条に基づく賃借申出の要件を欠き、主張自体失当というべきである。なぜなら、同条の賃借の申出は、建物を自ら建築して所有することを目的としてなされなければならないからである。

(2) 都市計画法五三条一項一号に定める「政令で定める軽易な行為」とは、「階数が二以下で、かつ、地階を有しない木造の建築物の改築又は移転」(同法施行令三七条)とされており、被告の本件建物の建築は右政令に定める「改築又は移転」に該当しない。

また、同法五三条一項二号に定める「非常災害のため必要な応急措置として行う行為」とは、施工区域内に存在する公園等の空地内に、緊急に、一時的に仮設住宅等を設置する場合等をいうものとされている。

このように、右各号に該当する行為は、建物の建築に該当しない行為及び非常災害のためやむを得ない応急措置としての行為であり、いずれも建物所有の目的で行う建築行為とは認められないものをいうのである。

都市計画法五三条による建築の制限は、都市計画として決定される計画について、将来の事業の円滑な施行を確保するために行われるものであるから、同条一項一号、二号に定める場合には制限をする必要がないので許可が不要とされているのである。したがって、これに該当しない建物の建築には、すべて同条の許可を受けなければならないものであり、本件の場合においても同様である。

したがって、右各号に該当する行為であるから都市計画法五三条の許可は必要でないとする被告の主張は、結局、本件借地権設定申出は建物所有の目的としてなしたものではないと主張しているに過ぎないものである。

(3) 被告は、本件借地権設定申出は都市計画法五三条の許可を停止条件として有効と解すべきである旨主張するが、本件の争点は、被告が本件土地の占有権原として臨時処理法二条の規定により賃借権を取得したかどうかであり、したがって、未だ効力を生じていない申出を前提とする被告の右主張は、抗弁事由とはなりえない。

また、被告の右主張は、建築許可を受けない申出の効力に関する解釈としても誤りである。

蓋し、被告の申出が都市計画法五三条の許可を停止条件として成立し、許可がなされた場合に効力が生ずるとするならば、右許可がなされたことを原告が知り、拒絶する意思表示をする機会が保障されなければならない。しかし、許可がなされたかどうかを原告が知る手段はなく(常に、関係機関に問い合わせ続けるしかない。)、被告の解釈を前提とすれば、原告の知らない間に許可がなされ、申出に対する三週間の拒絶回答期間(臨時処理法二条二項)が進行するという極めて不合理な結果となる。

よって、未許可段階での賃借申出は無効といわざるをえないものである。

(被告の主張)

(一) 本件建物は、いわゆるコンテナであり、その設置は都市計画法五三条一項一号(政令三七条の「移転」)及び二号に該当し、許可を要しないものである。

(二) 本件土地は、本件都市計画区域内に所在し、土地区画整理法七六条の適用があるところ、被告の本件建物の建築は、同条一項の「土地区画整理事業の施行の障害となるおそれがある土地の形質の変更若しくは建築物その他の工作物の新築、改築若しくは増築、又は政令で定める移動の容易でない物件の設置若しくはたい積」及び右政令である同法施行令七〇条に定める「その重量が五トンをこえる物件(容易に分割され、分割された各部分の重量がそれぞれ五トン以下となるものを除く。)」には該当せず、土地区画整理法七六条一項の許可を必要としないものである。

(三) 仮に、原告主張のとおりの許可が必要であるとしても、本件借地権設定申出は、臨時処理法二条所定の許可を停止条件として有効と解すべきであり、申出期間である二年以内に許可がなされた場合右申出は有効である。

2  本件土地の賃料相当損害金

(原告の主張)

本件土地の賃料相当損害金は、一か月当たり一五万円である。

第三  判断

一  争点1(本件借地権設定申出の効力の有無)について

1  臨時処理法二条は、罹災借家人の敷地優先賃借の申出は、「他の法令により、その土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合に、その許可がないとき」はすることができないと規定する。

そして、本件土地は、本件借地権設定申出前に決定・告示された本件都市計画の区域内に所在し、建築物を建築しようとする者は都市計画法五三条一項所定の許可を受けなければならない土地であることは前記のとおりであるが、被告は右許可を受けていない(争いがない)。

2  本件建物は、ブロック基礎の上に、鉄骨を組んでそれに外壁パネルを張り付けた簡易建物であり、いわゆるコンテナを置いたというものではないと認められる(検甲一の一・二)。

被告は、本件建物はいわゆるコンテナであり、「建物」ではないかのような主張をするが、もし被告がそのような物件を設置することを目的として本件借地権設定申出をしたというのであれば、そもそもその申出は、臨時処理法二条一項に定める優先賃借権の申出(「建物所有の目的で賃借の申出をすること」)には当たらないというべきである。

3  被告は、被告の本件建物の建築は、都市計画法五三条一項一号、二号に該当し、同項本文の許可を必要としない場合である旨主張する。

しかし、都市計画法五三条一項一号に定める「政令で定める軽易な行為」とは、「階数が二以下で、かつ、地階を有しない木造の建築物の改築又は移転」(同法施行令三七条)とされており、被告の本件建物の建築が右政令にいう「改築又は移転」に該当しないことは明かである。

また、同条項二号に定める「非常災害のため必要な応急措置として行う行為」とは、非常災害のために緊急に、一時的に応急措置として建築物を建築する場合をいうものと解されるところ(そのような場合には、都市計画事業の円滑な施行の障害とならないものとして、許可が必要とされていないのである。)、被告の本件借地権設定申出は、その経緯に照らし、従前の原告建物の賃借に代わるものとして、建物所有を目的とする本件土地の利用を目的としてなしたものであって、本件土地の一時的、暫定的な利用を目的とするものではないと認められるから、右二号にも該当しないというべきである。

4  被告は、本件都市計画事業については土地区画整理法七六条の適用があるところ、被告の本件建物の建築は、同条一項及び同法施行令七〇条により許可を必要としないものである旨主張するが、仮に被告の本件建物の建築が、右区画整理法及び同法施行令に規定する許可を必要としない場合に該当するとしても、前記のとおり都市計画法上必要な許可がなされていない以上、臨時処理法二条一項の賃借申出の要件を欠くものというべきである。

5  また、被告は、本件借地権設定申出は、臨時処理法二条所定の許可を停止条件として有効と解すべきであり、申出期間である二年以内に許可がなされた場合右申出は有効となるものと主張する。

しかし、臨時処理法二条の賃借申出につき、建築の許可が得られることを停止条件としての賃借申出を認めることは、罹災土地の所有者の法的地位を不安定にし、法律関係を複雑にする面があるので疑問があり、これについては消極に解さざるをえない(停止条件付賃借の申出を認める場合には、賃借の申出時点においては必要な許可が得られていないから、許可が得られたときに申出が有効となり、そのときから土地所有者の拒絶期間(同条二項)が進行すると解することになるが、その許可があったかどうかは土地所有者に分からないのが通常であるから、申出を拒絶する土地所有者がその拒絶をする機会を失ってしまうということも危惧され、土地所有者を著しく不安定な地位に置くことになる。また、罹災借家人は、土地所有者等の土地の使用権原を有する者が建物所有の目的で土地の使用を開始した場合には、賃借の申出をすることができないと解されるところ、停止条件付賃借申出がなされた後、許可が得られるまでの間に、土地所有者等が土地の使用を開始したときは、申出が有効であるのか、あるいは無効であるのかが問題となり、仮にこれを有効と解するとしても、土地所有者等としては、賃借申出の効力が生じていないのに、罹災借家人が許可を得るまでの間(最長、臨時処理法の施行〔同法二五条の二に定める政令施行〕から二年間)、罹災土地に建物を建築することができないことになり、長期にわたり不当な拘束を受け、罹災土地の早期の復興という目的に反することにもなる。)。

仮に、右停止条件付賃借申出が認められるとしても、臨時処理法二条による賃借申出の効力(借地権取得の効力)は、建築の許可が得られたとき(条件成就のとき)に生ずるものであるところ、被告は本件土地につき前記都市計画法上の許可を受けていないから、被告は未だ本件土地につき借地権を取得していないというべきである。(なお、仮に右停止条件付賃借申出を認めるとしても、その条件の建築許可は、賃借申出期間である政令施行の日から二年以内に得られる必要があると解されるところ、臨時処理法二五条の二に定める政令として平成七年二月六日政令第一六号が公布・施行されているので、同法二条一項所定の賃借申出期間は同日から二年間となり、既に右期間は経過している。)。

6 以上のとおりであるから、本件借地権設定申出は無効のものであり(少なくともその申出による借地権取得の効果は生じていない。)、したがって被告は本件土地の占有権原を有しないというべきである。

二  争点2(賃料相当損害金)について

証拠(甲二の一ないし八)によれば、被告は、平成七年五月一六日以降、原告を被供託者として、本件土地の賃料として毎月一四万二〇〇〇円を供託していることが認められ、この事実からすれば、本件土地の平成七年五月三日以降の賃料相当損害金は、一か月当たり一四万二〇〇〇円であると認めるのが相当である。

第四  結語

以上によれば、原告の請求は、主文第一、二項掲記の限度で理由があるので、これを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹中省吾)

別紙物件目録<省略>

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